投稿日:2021/01/28
バリウムと内視鏡検査。どちらがいいのでしょうか?実際に両方の検査を受けた経験がある女性医師が、内視鏡検査のリアルな体験談を語ります。医師の立場としてエビデンスに基づいた内視鏡検査のメリットも解説していただきました。バリウムにするか?内視鏡検査にするか?迷われている方必見です。
目次
登場人物

磯田さん(仮名)
30代女性。大病院に勤務歴のある元医師。さまざまな患者と接するなかで病気の怖さを知っていた。自身も30代を超え、健康が気になりだしたことから、以前の勤め先の病院で内視鏡検査を受けることに。
2017年に初めて胃内視鏡検査を受けた結果、食道に細胞腫が見つかる。半年後に超音波内視鏡で精密検査を実施。その後1年ごとに胃内視鏡を受けている。

インタビュアー
司会進行を行うインタビュー担当者。
初めての内視鏡~バリウムよりも内視鏡を選んだ理由~
Q1.まずは内視鏡検査を受けるまでの経緯を教えてください。


勤務先の健康診断でバリウム検査か内視鏡検査かを選べるようになっていて、前の健診ではバリウムを選んだんです。でも、バリウムを飲んだときに気持ち悪くなってしまったことと、内視鏡のほうが広範囲を詳細に診てもらえるというので、内視鏡にすることにしました。
Q2.磯田さん自身も医師だったんですよね。


はい。内科専攻でした。ですから、内視鏡検査がどんなものかは把握していました。
Q3.なるほど。じゃあ特に不安はなかったという感じですか?


はい。検査を受けたのもの私の勤務先だったので、特に大きな不安や恐怖はなかったのですが、やはりいざ受けるとなると、「やっぱり気持ち悪くなるのかな?」とちょっと心配にはなりましたね。
Q4.検査を受ける前はどのように過ごされましたか?


食事は前の晩の9時までに済ませました。内容は特に普段どおりです。あと、アルコールは控えていましたね。当日は午前中に検査だったので、朝食は摂りませんでした。
Q5.具体的にどんな検査を受けたんですか?


口からカメラを入れる胃内視鏡というものです。普通の内視鏡検査ですね。痛くないように喉に麻酔をしてからカメラを胃の中に入れます。
Q6.結果はどうでしたか?


食道に顆粒細胞腫ができていたのがわかりました。ピンセットのようなものでその部分を取り出し、生検を行うことになったんです。幸い良性で経過観察ということになりましたが、半年後に超音波内視鏡という、普通の内視鏡よりも精密な検査を受けたんです。
Q7.良性ということでしたが見つかってよかったですね。


はい。バリウムでは見つからなかったと思います。それと「あと5分で終わりますよ」と先生から言われていたのに、食道帰りに細胞腫が見つかって検査が長引いてしまったことは印象的でしたね。
より詳細な検査ができる超音波内視鏡とは
Q8.超音波内視鏡ってどんな検査なんですか?


先端に超音波を発する機器が取り付けられた内視鏡です。一般的な内視鏡はカメラが撮影した映像を医師が目視で確認して異常があるかどうか判断するのですが、超音波内視鏡ではエコーで細胞腫の大きさや潜り込み具合を診ることができます。
よく、精密検査で体の内部構造が撮影できるCTやMRIを使いますが、これらの機器では胃や食道などの細かいところまで見られません。超音波内視鏡なら、より精細に確認できるので、小さな細胞腫なども発見できるんです。
Q9.一般的な内視鏡は表面上のことしかわからないけど、超音波内視鏡なら目で見ただけではわからない異常も確認できるんですね。検査を受ける際には普通の内視鏡と違いはありましたか?


普通の内視鏡検査では麻酔を1種類しか使いませんが、超音波内視鏡は内視鏡のサイズが大きいため、麻酔を2種類使います。
Q10.超音波内視鏡を受けるときに不安はありませんでしたか?


普通の内視鏡を受けているので、検査自体に不安はありませんでしたね。細胞腫も良性と聞いていたので、それほど心配する必要はないのですが、それでも最終的な結果が出るまでは気がかりでした。
Q11.検査を受けてみてどんな感想を持たれましたか?


今までは私が医師として患者さんを診る立場だったのですが、今回はそれが逆転しました。まさか自分が生検を受けて腫瘍が発見されるとは思ってもいなかったので。ただ、バリウム検査だと見逃されやすいので、内視鏡を選択してよかったなと思います。
内視鏡を実際に受けた医師が内視鏡を進める理由
Q12.医師として内視鏡検査についてはどう思われますか?


一度受けてみるべきだと思います。内視鏡もバリウム検査も胃がん死亡率を下げる効果が証明されています。今、対策型健診では2つのうちどちらかが選択できます。
Q13.バリウムでも死亡率は下げられるけど、より詳細に調べられる内視鏡のほうがいいということですか?


そうですね。数々の研究で内視鏡の有意性が認められる結果が出ています。たとえば鳥取と新潟で実施された症例対照検査では3年以内に一度以上内視鏡検査を受診した人の集団は、受診していない集団と比較して30%も胃がん死亡率が低いという結果が認められています。一方、バリウムは有意な結果が認められませんでした。[1]
韓国でも胃内視鏡検診によって57%の胃がん死亡率減少効果が認められています。バリウムは7%です。[2]
長崎上五島で行われた研究では内視鏡検査の受診によって胃がん死亡率が80%減少したという結果も出ています。[3]
ただし、いずれの研究結果も母数が少ないので、今後さらに研究を進めていく必要性はありますが、少なくとも何も検査をしていない、あるいはバリウム検査のみと比べても、胃がんで死亡するリスクは軽減できると思われます。
Q14.なるほど。異常が早く見つかるから死亡リスクが低くなるということですよね?そういった効果を証明する研究結果もあるんですか?


はい。新潟県で行われた研究では10年間の胃がん発見数は2424例、バリウム検査は571例でした。とりわけ内視鏡においては胃、食道とも、高い比率で早期がんが発見されています。死亡率も何も検査していない人と比較すると内視鏡検査、バリウム検査をした人のほうが低い傾向があります。[4]
また、アジア諸国を対照とした6つのコホート試験と4つのコホート内症例対照研究を合わせたメタ解析とシステマティックレビューでは、内視鏡スクリーニング後の胃がん死亡率における相対リスク減少率は40%という結果が出ています。[5]
Q15.医師として内視鏡検査についてどう考えますか?


上記の研究結果からも、内視鏡検査によってがんが早期に発見でき、しかも死亡リスクを軽減できることにつながると考えられます。
内視鏡検査はバリウムと比較して
・得られる情報が多いこと(出血、粘膜の色など)
・異常があった場合、そのまま生検を行えること
・観察範囲が広いこと
というメリットがあるため、内視鏡検査を患者さんにすすめる医師も多いです。
ただ、未だ研究途中なので、医師の間でも議論が続いています。バリウム検査にもメリットはあります。両者を比較して納得した上で検査を受けることが重要です。
Q16.ありがとうございます。実際に受診する立場としてはどう思われますか?


繰り返しになりますが、細胞腫が見つかって早めに対処できたので、受けてよかったと思っています。内視鏡は苦しいので、バリウムよりもきついと言われていますが、そんなことはありません。
今は1年に一回、内視鏡検査を受けています。特に私の場合は食道に経過観察を必要とする細胞腫があるため、しっかりと診られる内視鏡検査のほうが合っていると思います。
他の人に対しても、楽で異常が早期に見つかって、がんのリスク低減が期待できる内視鏡検査をおすすめしますね。
今回は、ありがとうございました。医師の立場・患者の立場でお話いただいたので、とても説得力がありましたね。早期に異常を発見したいということであれば、一度内視鏡検査を考えてみてもいいかもしれません。まずは情報を集めて医療機関に相談してみましょう。

参考文献
1) Hamashima C, Ogoshi K, Okamoto M, et al. A community-based, case-control study evaluating mortality reduction from gastric cancer by endoscopic screening in Japan. PLoS ONE 2013; 8(11):e79088.
2) Cho B. Evaluation of the validity of 4current national health screening programs and plans to improve the system. (in Korean) Seoul University, Seoul, 2013, 741–758.
3)Matsumoto S, Yoshida Y. Efficacy of endoscopic screening in an isolated island: a case-control study Efficacy of endoscopic screening in an isolated island: a case-control study. Indian J Gastroenterol 2014; 33(1):46–49.
4)Current Status and Prospect of Gastric Cancer Screening- Based on The data of Gastric Cancer Screening in Niigata City, Rintaro NARISAWA,Toshiyuki KATO,Shunya SASAKI,Kazuhiro FUNAKOSHI, Kazuhiko SHIOJI,So KURITA,Tomoya AOYAGI and Kazuei OGOSHI
5)2018 Aug;155(2):347-354.e9. doi:10.1053/j.gastro.2018.04.026. Epub 2018 Apr 30. Endoscopic Screening in Asian Countries Is Associated With Reduced Gastric Cancer Mortality: A Meta-analysis and Systematic Review